生前の姿そのままに、故人が自分の言葉で語りかける——。そんな映画のような技術が現実となった。AIで故人を再現する「AI故人」サービスが相次いで登場し、遺族の深い想いに応える新たな弔いの形として注目を集めている。しかし、故人への敬意か、それとも冒涜かという議論も巻き起こしている。
ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/ccea3db038e4004924e380b17e066403f12d7784
告別式で故人が語りかける時代
2024年12月、静岡県で行われた98歳男性の告別式で、参列者たちは驚くべき光景を目にした。スクリーンに映し出された故人が、生前と変わらぬ声と表情で参列者に感謝の言葉を述べたのだ。
「皆さん、今日は私のために集まってくれて、本当にありがとう。こうしてみんなが私を思い出し、送ってくれること、心からうれしく思います」
この映像は生前に撮影されたものではなく、生成AIによって作り出された「AI故人」だった。まるで本人が語りかけているかのような自然さで、会場にいた人々の心を深く揺さぶった。
最短3日で故人を再現する技術
冠婚葬祭事業を展開するアルファクラブ武蔵野が2024年12月から開始したこのサービスは、遺族が作成した文章を故人の姿で読み上げる「メッセージ型」だ。必要なのは故人の写真と1分以上の動画のみ。人工知能が生前の人相、声、話し方といった個人特有の癖を詳細に分析し、最短3日で故人を精密に再現する。
初期費用は9万9800円から、月々のデータ保管料は980円という価格設定で、多くの家族が利用しやすい価格帯に設定されている。実際に父親のAI故人を依頼した男性は、「亡くなった父自身の声で挨拶をしてほしいと思った。文章を考える2時間は、みんなでワイワイ言いながら決めて、その時間は楽しかった」と振り返る。
対話型サービスで故人との会話が可能
技術の進歩はさらに進み、単なるメッセージ再生を超えた「対話型AI故人」も登場している。これは故人と実際に会話ができるサービスで、利用者の約7割が亡くなった家族との対話を求めているという。
興味深いのは、残りの3割が「自分が死んだ後、家族が話せるように」と、生前に自分自身のAI化を依頼する終活の一環として利用していることだ。これは現代の新しい遺言の形とも言える画期的な取り組みだ。
企業での活用にも広がり
このサービスの活用範囲は家族の枠を超えて拡大している。アルファクラブ武蔵野の小川誠取締役によると、「会社関係の創業者の声を周年行事のときに復活させたい」といった企業からの依頼も増加しているという。
創業者の理念を直接的に後世に伝える手段として、また企業の歴史を生き生きと語り継ぐツールとして、AI故人技術は新たな可能性を開いている。社員や関係者にとって、創業者の生の声で企業理念を聞くことは、組織のアイデンティティを強化する効果も期待できるだろう。
賛否が分かれる新技術への評価
しかし、この革新的な技術には様々な意見が寄せられている。支持する声は「最愛の人ともう一度話したいという切実な願いを叶えてくれる」「現代技術による新しい弔いの形」として評価している。
一方で、反対意見も根強く存在する。「故人の尊厳を損ねる行為ではないか」「死者への冒涜」「自然な死別のプロセスを妨げる可能性」といった懸念の声が上がっている。特に宗教的観点や倫理的観点からの議論は今後も続くと予想される。
新時代の弔いの形として定着するか
AI故人サービスは、テクノロジーが人間の最も深い感情に寄り添う試みとして注目を集めている。愛する人を失った悲しみは人類共通の体験であり、それを癒やす新たな手段としての可能性は大きい。
ただし、技術の進歩と同時に、故人の尊厳や遺族の心理的健康への配慮も重要な課題となる。プライバシー保護やデータの適切な管理、そして何より故人への敬意を保ちながら、どのようにこの技術を社会に受け入れていくかが問われている。
現在は賛否両論の状況だが、サービス利用者の増加傾向を見る限り、AI故人は新しい弔いの選択肢として社会に根付いていく可能性が高い。重要なのは、技術の発展と倫理的配慮のバランスを取りながら、故人への敬意と遺族の心の平安を両立させることだろう。